聴講報告:「仕事と家庭の両立:ワーク・ライフ・バランスを考える」和光大学教授 坂爪洋美先生

育休後コンサル

平成24年度第62期神奈川県労働大学講座「21仕事と生活の調和」を聴講したので報告します。

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タイトル:「仕事と家庭の両立:ワークライフバランスを考える」

目次

改めて認識したこと

この講座は、地元企業の経営者や人事、労務の担当者が仕事が終わったあとの平日の夜に勉強するもので、全部で30回の講義があります。
内容は基本的なことから実務に至るまで、専門の先生がわかりやすく教えてくださいます。
ワーク・ライフ・バランスをテーマとしているのはこの第21回の一コマ(2時間)でした。

これまでいろいろな角度からワーク・ライフ・バランスについて学んできましたが、この講義で改めて認識した点を以下に述べます。

WLBとは

・イギリスでのWLB(ワーク・ライフ・バランスを以下このように略します)の定義は、個人が働き方を調整すること、といったように個人が主役。「あなたはどう働くのか」という視点である。
・アメリカでは「企業が」従業員の私生活を効率的に管理することにより幸福を満たす、という「企業」目線の考え方。
・日本での定義は両方が盛り込まれている「2007年版経営労働政策委員会報告」(2006年12月)

・日本でのWLBは国が主導する形で進められている。=法律や行動指針がWLBのあり方に大きな影響を与えている。その結果、
「なんでWLBやるの?」「法律できめられたから」「でもなんで?」という状況が発生している。
制度の利用者が出たことが成果のように言われるがそうじゃない。その人たちがどう働いているかが問題なのだ!

両立支援策

・両立支援策について大企業を中心に施策が進んでいるが、表彰されているのは「制度」である。
・今後との課題としては就業継続が可能になった女性従業員をどう活用するか?
・不公平感をどう是正するかは課題だが、最後は「お互い様」という感覚を持てるかどうか。
・両立支援策が企業にもたらす効果を考えるとき、両立支援策は効果の土台を作り出す存在ではあるが、人材育成策をプラスしなければ効果は限定的。プラスすることで人材確保、モチベーション向上、企業業績に影響がある。

・従業員と会社とではWLBに関する認識が異なる部分がある。特に、従業員は会社が思っている以上にWLBがもたらす「マネジメントの困難さ」や「他の従業員の業務負担増」を意識している。
・両立支援策には、従業員に不公平感を感じさせる側面がある。公平な評価制度を構築している場合には、両立支援策の充実が、広く従業員全体に対して就業継続意欲を向上させる。
・Keyとなるのは評価の公平性。次のいずれか一つ以上を実施すること。
「公平な評価制度を作る」
「両立支援策利用者の評価方法を示す」
「(管理職に)公平な評価を行うことを求める」

・両立支援策利用者に、評価基準を伝えることが重要。
例:賃金や昇格スピードの違いを明確にする
成果による評価の調整余地を残す
「違うこと」より、「わからないこと」への不満が大きい。
多様な働き方の中で、わからなさ、不公平感が不満につながっていく。ー>これをなるべく減らす努力をするべき。

制度利用者

・WLBを実現するために従業員が考えるべきこと:働き方を自分で選択すると同時に、相対的にとらえる視点を持つ。
自分の働き方は周囲にどのような影響を与えるのかを意識する。
→(残念ながら)教えてやらなければいけなこと。
キャリアに対する長期的な視点をもつ。
・企業はこういった従業員の能力開発に取り組む必要がある。

管理職

・WLBを実現するために管理職に求められること
「許容する」こと。仕事第一だから成功できた管理職には、自分と異なる働き方と考え方を許容してもらわなければならない。
・管理職が抱える3つの「わからない」
=自社の施策がわからない(知らない)
=やる理由がわからない(納得できない)
=どう対応したらよいのかわからない ー>これが一番あるある。そもそも女性の部下にどう接していいのかわからない

・両立支援策を利用している部下を持って初めて管理職が気づいたこと
1 部署内の業務の効率化を図ることが必要
2 部署内の業務分担を柔軟に見直すことが必要
3 部署内の情報共有を図ることが必要

・両立支援策を利用している部下を持って初めて管理職が会社に求めること
1 両立支援策利用者の仕事の意欲やキャリア意識を高める仕組みづくり
2 両立支援策利用者を後進のロールモデルとしてアピールする

・管理職が認識する制度導入の理由が、短時間勤務制度利用者の評価に大きく影響を与える。
=明確な導入理由があり、かつ管理職に伝わっていることが重要。
法律で定められたから、という受動的な理由ではなく、我が社はこう考えているから、といった主体的な理由が必要。

・時短でない社員との違いの大きさが、時短利用者の評価に大きく影響を与える。
=勤務時間が短いー>否定的評価
=利用期間が短いー>積極的評価

・利用者の仕事内容が評価に大きく影響を与える。
=仕事内容が高度であるー>積極的評価
「この人がいてくれてよかった」という人が制度を使うと、「よかった」と評価できる。
制度を使うより以前に、どれだけ力を高めておけるかが、問題。

管理職が、両立支援制度を自分の中でどのようにとらえているかが、部下の評価に影響を与えてしまう。

まとめ

・現時点でのWLBは、働きがいに直結することを想定していない取組みである。

・多様な人材の働きがいはどうやって高めるのか。
働きがいを高めるWLBという観点から新たな取組みが考えられないだろうか。

例:昇進、昇格がない人たちの働きがいを高めるには?

感想

・WLBの導入と生産性や業績についてはなかなか統計的に明らかになっていないという認識がありましたが、この講義で紹介された論文では調査結果が数字で示されており、それをきちんと把握した上で今後の課題解決に当たらなければ、と思いました。

・成果評価の重要性、業務分担・業務効率向上の必要性、能力開発の必要性など、大事だと考えながらも頭の中で点在していたことが整理されてきました。

・管理職の3つの「わからない」は「そこからかい!」とがっかりしている場合ではなく、まじめに解決していかなければいけない課題と認識しました。各企業へのサポートに活かしていきたいと思います。

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