女性医師支援フォーラム in Yokohama 〜やめない、あきらめないキャリアプラン〜 聴講報告

女性の医師を応援するフォーラムを聴講したので報告します。
第5回女性医師支援フォーラムin Yokohama 〜やめない、あきらめないキャリアプラン〜
日時:2011年2月12日(土) 13:00〜16:30
場所:横浜情報文化センターホール(神奈川県横浜市) 
内容:女性医師を取り巻く諸問題を考える
   特別講演 「父の介護から学んだこと」 タレント・輸入雑貨店経営
   若手医師の体験談、女性のキャリアアップ、学生の発表など
主催:横浜市立大学附属病院
対象:医師、医療関係者、ダイバーシティ・マネジメントやワークライフバランスの推進に関心のある方

注目した点:深刻な医師不足の原因のひとつである女性医師の問題を、現場の医師や医学生がどのようにとらえ、改善していこうとしているのかを直接聞けるところ。

<特別講演>
「父の介護から学んだこと」タレント・輸入雑貨店経営 
・お父さんがアルツハイマー型認知症を発症するまでと、発症してからの対応、感じたことの具体的なお話。
・自分でしばらく介護したが、そのうち自分のことがわからなくなった。徘徊が始まって手に負えなくなり、区役所に相談し、施設に入れることにした。介護士さんの対応は手際よく患者の気持ちにもよりそっていてすばらしい。お父さんは施設で楽しそうにしている。もっと早くからプロの手にゆだねればよかった。
・介護士の仕事は本当にやりがいがある良い職業だと思う。給与その他の待遇が悪いことが問題だ。若い人が夢を持って働けるようにしてほしい。

<これまでの女性医師支援フォーラムと女性医師バンクについて>
横浜市立大学附属病院 臨床研修センター長 

<周産期医療環境整備事業について>
横浜市立大学附属病院 小児科教授 
・文部科学省 平成21年度「周産期医療環境整備事業(人材養成環境整備)」に選定され(全国では15大学)5年間で2億円の助成を受けている。
・神奈川県では周産期症例(例:早産の危険がある母体の搬送)を収容できず年間100例を他の都県に依頼しなければならない。その理由はNICUの病床数や医師の不足などが理由である。
(取り組み概要については下記の横浜市大病院のサイトを参照のこと。
周産期医療環境整備事業(人材養成環境整備)|横浜市立大学
・取組みの一環として、育児休業中の女性医師を周産期現場でパートタイム勤務させる。そのための保育の充実を図る。これにより、女性医師の休業からの復職がスムーズに行える。

<仕事と子育ての両立 産婦人科医として>
横浜市立大学附属病院 産婦人科 
・平成22年1月に第一子を出産。4月に仕事復帰。大学で平日外来業務のみを行っている。
・認可保育所に4月から入れる場合、12月上旬に申込が閉め切られる。若手医師の場合毎年のように異動がありこの時点ではわからないため難しい。
・産休明けに認可園に預けようとしたところならし保育に一ヶ月かかると言われる。そのため院内保育所に預けることとした。しかし院内保育所は2才までしか預かってくれない。(改善予定?)
・母乳の継続、子どもが病気のときの対応が課題。
・2ヶ月の子を預けて働くことへの不安は、預けてみたら解消された。
・仕事への不安:同僚はばりばり働いていて焦りを感じたが、毎日外来に出ることで難しい症例にもあたるし、やりがいを感じることができるようになってきた。他人と同じようにはできないが比べなければよい、着実に身になっているものはある。
・院内保育所は病後児保育を併設しており大変助かる。
・長期専門医研修コース(育児のため制限つき勤務をしながら専門医取得を目指すコース)は非常に助かった。このコースにのっているということが人に理解されやすい。柔軟に対応してくれる。同じ働き方の人と助け合える。
・ベビーシッターは子どもが病気のときなどとても助かる。ただし費用が高いのでいつもは使えない。
・夫は医師。育児、家事、仕事への理解協力があり大変助かっている。
・他業種と比べて医師はフルタイム勤務のハードルが高い。残業、当直、オンコールまでこなしてようやくフルタイム扱い。また勤務先の異動が多いので育休が取りにくい。負担をかけている他の医師や、他科の女性医師の育児環境への配慮が必要。
・病院、保育所、医局の支援で4月から病棟勤務、当直を開始できる。しっかり仕事で恩返ししたい。

<女性のキャリアアップ 看護師の立場から>
横浜市立大学附属病院 看護部看護師長 
・平成元年から市大病院に勤めている。二人の子育ては親の支援を受けて両立してきた。
・マネジメントを志したきっかけは患者取り違え事故。誰にでも起きることで、それを防げるようスタッフを支えたいと思った。
・看護師アンケートで退職希望者が全体の1割。転職、家庭の事情、キャリアアップといった理由が多い。一方で、退職希望者の3割弱は理由を記入していない。この人たちをサポートしていくことで、退職を防止できると考えている。
・家庭の事情で退職したいという人のうち3割強が育児の問題と答えている。この内容は子どもが小学校へ上がることと把握している。この層への対策が必要。
・病院には職員一人一人のワークライフバランスをサポートしてほしい。ナース同士(特に若いナース)のつながりが希薄なのでそこを改善したい。

<共働き子育てのやりがいと限界 〜落ちこぼれイクメンからの提言>
横浜市立大学附属病院 小児科 
・4才、1才の子がいる。妻は医師で、下の子が4ヶ月の時に復職。
・医者として共働きをしながら二人の子を育てるのは非常につらい。その理由を説明していきたい。
・(社会の問題)保育園が上の子と下の子で別。院内保育所は2才までしか預かってくれない。
認可保育所は待機児童が多く入園が難しい。急な病気の時のサポートシステムがない。
・(医師特有の問題)人の命を預かる仕事。長時間拘束されることがある。処置、手術の中断はきわめて難しい。主治医の場合ひっきりなしに呼ばれることがある。業務以外の参加義務のある用事が多い。
・(文化の問題)男性の育児休暇が取りにくい。頭では男性も育児をするのが当たり前と思っているが、育児や家事を手伝って「あげている」という意識をぬぐい去れない。
・医師の男女共同参画が進むには:社会インフラの整備、医師の仕事の仕方を見直す(シフト制を整備)、日本社会として両親が育児に参加できるようにする。
・離職する女性医師が減れば、結果的に自分たちがhappyになるということに男性医師、女性医師とも気づくべき。

<出産・子育てと女性医師のキャリアデザイン」に関する学生の発表>
横浜市立大学医学部医学科4年 
・卒業生へのアンケートとインタビューに基づく発表。多くの子育て中の医師にインタビューをしており、非常に興味深い内容だった。(メモが取りきれず掲載できませんでした、残念)

<横浜市大産婦人科の女性医師支援体制の現状と課題>
横浜市立大学附属病院 産婦人科准教授 
・妊婦のたらいまわしや「大野病院事件」(Wikipedia参照)の影響で産婦人科を希望する学生が激減したことへの対策として2007年から取り組んでいる。
・分娩実施率が経験年数11年以降に女性医師は大きく下がる。専門医の資格がとれたら辞めて検診センターなどに転職してしまう女性医師が多い。
・産婦人科医は魅力的な分野だがハードルが高い。勤務状況の改善と訴訟リスクの低減を軸に改善を進めている。
・勤務状況の改善:若手医師向け勉強会の実施、短時間正規雇用医師活用の試み、時間外手当、分娩手当の充実
・訴訟リスクの低減:参加医療補償制度への加入
・長期専門医研修コース:フルタイム3年の専門医研修を4−6年かけて行う。育児休業中すっかり休んでしまうことなく、週1、2回でもよいから継続して現場にいたほうがよい。
・女性医師支援プログラム活用例としては、週1日、2日、3日、5日と増やしてきた事例あり。
・多様な働き方に、周産期医療整備事業をうまく使って対応している。
・今後の課題:入局者の男女比の適正化(現状女性が増え過ぎ)、
女性医師を支える側のインセンティブ、保育所だけでなく、学童期、思春期のケア、女性医師支援から男女共同参画へ

<全体を通じての感想>
・開始時には人数が少なく、ホールにまばらに人がいる程度だったのでもったいないと思ったが、次第に人が増えた。聴講者はほとんど大学病院関係者だったように思えた。
・基本的には医師も企業人も出産前後のワークライフバランスに関する問題に違いはないのだが、医師の場合育児休業として完全に長期間休むのは現実的でないように思えた。
医師にとって望ましいのは、横浜市大でも実施されているように短時間または少ない日数の勤務から始まって次第に元に戻していくような段階的な復帰であり、それを100%可能にする保育体制ではないかと感じた。
・夜間保育、病児保育が、病院内で可能になれば、子どもが乳幼児期の勤務はかなり可能になるのではないか。
次に考えるべきは最後の課題にも出ていたが学童期の子どものサポートである。学童期には病院で子どもを預かることは現実的でないのでそれぞれの自宅近くで体制を整えることになる。当直時にもう一方の親も対応が不可の場合のベビーシッター代などを援助する必要があるだろう。
・父親として発表した医師は落ちこぼれなどではない。そもそもイクメンに上も下もなく、育児を自分の問題として真剣に取り組んでいる父親はみなイクメンである。
・彼の苦悩は、夫婦ともに医師であり自分は小児科医で妻は産婦人科医。どちらもそれぞれ重い責任を持って仕事をしなければならないのに、結果的に子どもが病気の時は妻が休み、治療その他で抜けられない時もおもに妻が周囲にお願いして抜けさせてもらっていることだ。
それは妻が働きにくくなるだけではなく、出産した女性医師といっしょに働くと大変だ、ということになり、女性医師の離職を促進する一因となることがわかっているから、彼は苦悩しているのである。
夫婦が共に医師、というカップルが多い現状、そういった夫婦が子どもをほしいだけ持つことができ、二人とも納得がいくように仕事ができるようにすることで、医療現場における女性医師の離職には歯止めがかかるのではないだろうか。
・今日のフォーラムで女性医師、看護師のお話を聞いて気づいたことは、専門家としての意識が平均的な企業に勤める女性社員よりはるかに高いということだ。モチベーションが高く、責任感が強く、スキルアップの意欲も高い。この方たちにとっては、出産後も専門家としてプライドを持って働けることがやりがいに通じる。
だとすれば、必要な制度や運用規則は、「休ませるための制度」ではなく「働かせるための制度」である。実際、週1日から増やしていって最終的にフルタイム、とか、平日外来だけから始まって、当直と病棟を追加するとか、そういうやり方で少しずつでも働いてもらえる制度を整備している。
・企業でも、ワークライフバランスの制度を「休ませる」から「働かせる」にシフトしてはどうか。例えば、融通のきかない短時間勤務制度を固定シフトで用意しておくのではなく、早出フレックスで早く帰れるフルタイム勤務を可能にするとか、休日出勤で働いた時間数を平日の足りない分に充足できるとか、時間単位の有休を使えるようにする(通院や参観日などに使える)。夜の会合をランチミーティングにしたり、泊まりの研修を平日や土曜日の昼間に持ってくる。意欲のある人にやる気をなくさせるほどもったいないことはない。病院も、企業も、貴重な人材を失うことのないよう、今すぐに対応を見直してもらいたいと思う。

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