本の紹介:「迷走する両立支援」とその後の展開 #wlb_cafe

*このエントリははてなダイアリーに2009年8月24日に掲載した日記に最近の出来事を追加したものです。*

☆この本が書かれた目的

仕事と家庭の両立支援の追い風の中で、職場を去る正社員の母親は後を立たないのはなぜか。両立生活の渦中にいる働く母親は両立をどう体験し、支援は何をもたらしたのか、それを探ることが目的。

☆著者が対象と考えている読者

・仕事と育児の両立支援に取り組む国や企業の担当者

☆こんな人にお勧めです

・企業で女性活用プロジェクトの推進をするため、当事者である女性に生の声を聞きたいと思ってインタビューしたところ、なぜかガードが硬くて話してもらえなかったり、笑顔で「特に問題ありません」、と言われたり、「話したところでどうせ何も変わらないんでしょう」と言われたりして、困っている方。

・人事担当で、自分の会社は両立支援の制度が国の基準より大幅に充実していて、女性の採用や登用を積極的に進めようとしているのに、なぜ女性の管理職が育ってこないのかわからず、困っている方。

・子育てしながら仕事をしていて、自分(または妻)の置かれている状況について疑問を持ち、なぜこんな状況なのかを知りたい方。

☆事例として紹介されている組織

・ファニー・メイ(米)

・インテル(米)

・(日本の事例は職場名、社名が伏せられています)

☆こんな表現が印象的です

 子どもが重病になり、職場の許可を得て休んだまではよかったが、査定の面接で「休むことをあたりまえと思って仕事をしているのではないか」と問われた人もいる。その本人だけでなく、それを知った周囲の女性は、職場のホンネをみてしまう。こうして一度、不信感をもった働く母親は警戒し、ホンネを語らなくなる。「子どもをもって働くこと」の体験を聞こうとする社に対して、「それなりに苦労はあるが、職場の支援と理解のなか、男性と同様に働く一人の社員」の顔を見せる。「これも仕事のうち」と。

 ホンネがひきだせなければ、人事部や労働組合は、根本の問題に行きつけない。やがて両立支援の制度をつくることじたいが目的化し、対応は定式化する。(250ページ)

☆感想

引用したい文章が、上記以外にもたくさんあります。本質にせまる問題提起が端的に表わされていて、紹介したいのはやまやまなのですが、全部引用していくと膨大な量になってしまうのでやめておきます。

仕事と育児の両立支援と、男女雇用機会均等推進との両方が「つながっていない」と指摘してくれたのは、私にとってはこの本が初めてでした。現象として、育児休業取得者は増えても、復職後のキャリアアップが難しいという事例は多く見てきたので知っていました。著者はそのことを取材により裏づけ、企業でその二つの施策を結びつけるための環境が整っていないことを具体的に指摘してくれました。

この本は、ダイバーシティやワークライフバランスの推進にたずさわる人にとって、ある意味、越えられそうもない高い壁を感じさせるほど、根の深い問題をストレートに提示しています。

しかし、この問題をしっかりと認識していることが、一歩ずつでも前へ進むための基盤になります。

すべての職場がこの本に書かれているような問題を抱えているわけではありませんし、本当の意味で理解のある管理職や父親も増えてきています。そういった環境にある女性はそれに気づき、堂々と、自分のやりたいような仕事のやり方を追求していくべきだと思います。また、自分の力で環境を変えていくことができるチャンスがあれば、チャレンジすべきだと思います。

また、ホンネで語らなくなってしまった母親たち、もう一度正直なところを発言しようよ。それにより、少しずつでも育児休業後の母親の仕事環境が良い方向へ変わっていくことを信じたいです。

☆その後の展開
この本の評判がTwitter経由で広がり、著者との交流イベントを企画することになりました。その準備も兼ねて、有士によりワークライフバランス・カフェ(twitter分室)という場が創られました。
「迷走する両立支援」萩原久美子著-働く母が抱えるもやもやの核心に迫る問題作を読んでみた 
ワークライフバランス・カフェ スタッフ日誌
著者とは、下記のような経過で実際にお会いすることができ、交流会の企画を進めています。
萩原久美子さんからお電話をいただくまで
「迷走する両立支援」の著者にお会いしました #wlb_cafe
一冊の本を読むことから、これまでに経験したことのないようなチャンスが広がり、仲間ができたことをとても嬉しく思っています。さらなる展開にご期待ください。

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