女性の医師が出産後仕事を続けるのが難しいという話をよく聞くので、実際に何が問題なのか知りたいと思って参加しました。
パンフレットはこちら↓
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プログラム
学習院大学経済経営研究所(GEM)
第3回公開ワーク・ライフ・バランス カンファレンス
-勤務医・看護師におけるワーク・ライフ・バランス-
日時:2010年9月9日(木)13:30-17:00
場所:学習院大学目白キャンパス 西2号館2階201教室
後援:東京都、日本看護協会、第一法規株式会社
13:30-13:40 挨拶 今野浩一郎氏 (学習院大学 経済学部 教授)
13:40-14:40 基調講演 遠藤久夫氏 (学習院大学経済学部 教授 中央社会保険医療協議会会長)
「ワーク・ライフ・バランス思想は医療を救えるか?-勤務医の勤務実態と勤務医離れ-」
15:00-15:40 中島美津子氏 (東京病院 副院長)
「医療組織におけるワークライフバランスの追求~濁れる水の流れつつ澄む~」
15:50-16:30 荒木葉子氏 (荒木労働衛生コンサルタント事務所 所長)
「女性医師の労働環境」
16:30-17:00 脇坂明氏 (学習院大学 経済経営研究所 所長)
「WLB研究の現状とWLB指標の活用状況」
*司会 木谷宏氏 (学習院大学 経済経営研究所 客員所員)
この半日のカンファレンスで、自分としては膨大な情報量を得たわけですが、それをここに再現しようとするとなかなかまとまらないので、ポイントだけを書くことにします。
遠藤氏「ワーク・ライフ・バランス思想は医療を救えるか?-勤務医の勤務実態と勤務医離れ-」
<メモ>
・ミクロのWLBだけ考えていても問題は解決しない。一歩間違えるとWLBが医療を崩壊させることにもなりかねない。
・10年前から特に急性期医療の分野で医療崩壊が始まっている。
・地域格差、診療科格差が問題。
・臨床研修制度ができたことで2年間の間に厳しい診療科がわかってしまい、その科を選択することを最初から避けるような動きがある。
・訴訟は産科が多い。
・国家試験に合格者の4割が女性。
・日本は医療費が低く、先進国の最低水準。GDPに占める総医療費の割合の伸びも最低。
・医療収益率の推移は一般病院(個人)がもっとも高く、公立病院がもっとも低い。
・1週間あたりの勤務時間は男性が63.8時間、女性が60.6時間。
・医師不足の対策として診療報酬を上げるためのさまざまな取り組みをしている。医師でなくてもよい仕事をほかの専門職に分担させるプロセスを作ると診療報酬を上げるとか、そういったさまざまな工夫をshちえいる。
<感想>
・勤務医のWLBを考える上で前提となるさまざまな背景を一通り説明していただいた気がする。
・これまであまり興味がなかった「診療報酬」だが、重要な役割を持っていることがわかってきた。
中島氏「医療組織におけるワークライフバランスの追求~濁れる水の流れつつ澄む~」
<メモ>
・中島氏は博士(看護学)。
・看護師が不足していて現場では「さばき型」看護になっている。本当は一人ひとりの患者さんに丁寧に対応したい。
・人が足りないのに短時間勤務で求職してくる人は責任感が薄いという先入観があり採用しなかったり上手に使えなかったりする。
・疲れているため思いやりがなくなっている。「妊娠?じゃ産休はいつから?」「独身なんだから時間たくさんあるじゃない!」
・成果を上げている組織は1.公平な人間関係 2.お互いを必要なメンバーと認めている 3.一人ひとりのアイデンティティの確立 4.ワークライフバランスがとれている
・成果を上げていない組織は1.プライドを捨てきれないリーダー 2.自分がうまくいけば後は補助的存在 3.リーダーの主観による決定権
・お互いが支援関係のあるプロとして認め合える風土。互いに評価しあうことが大切。
・「犠牲のない献身こそが真の医療奉仕につながる」ナイチンゲール
・私たちの心には愛情のコップがある。満たされていなければ愛情を求め続け溢れる愛情は出てこない。自分の愛情のコップが満たされていれば真の愛を注ぐことができる。
・看護職は一般に慎重で石橋を叩き割ってしまうようなところがある。したがってWLB活動は、効果をフィードバックし確かめながら推進することが重要。
・常に職場のことを第一に考える人事担当者が不可欠。
・理事長・病院長は患者のためになるかを常に考えるべき。
・日勤常勤制度、休日エコポイント、学童含めたキッズルーム、夜勤専従正職員制度、短時間正職員制度などなどを導入してきた。
・最初からうまくいくなんて思わない!
<感想>
・講師はバイタリティにあふれていて聞いているほうまで元気に。6時間分の資料を使っての説明は説得力があった。
・WLBの推進のために、指導・伝達プロセスが増えたり、前例がないことをしなければならなかったりすることへの不安。これを払拭することが、うまくいくための必要条件だと感じた。
荒木氏「女性医師の労働環境」
<メモ>
・荒木氏は医学部卒業後海外留学を経て産業医に。現在は東京医科歯科大学女性研究者支援室 特任教授 兼務。
・女性の割合の高い診療科は皮膚科、眼科、小児科、麻酔科、産婦人科、放射線科。外科系、整形外科、泌尿器科は非常に少ない。
・女性の外科医の平均週労働時間は7割の人が60時間以上。子どもがいる人は3割が60時間以上。子どもがいない人は8割が60時間以上、4人に一人は90時間以上。
・都道府県別で女性が多いのは東京、神奈川、徳島、京都、大阪。低いのは北海道、青森、岩手。
・女性医師の必要な支援:保育施設、宿直・日直・時間外労働への配慮、出産育児休業取得者への職場復帰支援、複数主治医制度など。
・支援策:日本医師会では厚労省の医師再就業支援事業の委託を受け、女性医師バンク創設、離職医師への再研修、勤務環境整備についての啓蒙活動を行っている。
文科省では大学での保育、キャリアカウンセリング、セミナー、ママさんドクターリターンプログラム、病児保育、研究補助者配備事業などが展開されている。
・結論:女性医師は就労継続の意志があるにもかかわらずそれが阻まれている事実があり、それを解決することが医療崩壊を防ぐために重要な課題である。
<感想>
・専門職であり数も少ない医師という職業で、女性の終業継続が企業よりはるかに遅れているのは意外だった。
・一人の医師を育成するためには多くの税金が使われているのだから、医師になった人がキャリアを継続できないということはあってはならないことだと思う。
・幸いなことにさまざまな支援の取り組みが始まっているのでそれを病院間、大学間で共有し、さらに経験を積んだ他業界からも学んで早急に医療崩壊の解決を図ってほしい。
脇坂明氏 「WLB研究の現状とWLB指標の活用状況」
<メモ>
・GEMではワーク・ライフ・バランスの推進状況を判断するための指標を開発し、それに基づく企業の評価・比較と報告を実施している。
<感想>
・WLB指標を自由に使ってかまわない、ということなのでぜひ参考にしたい。指標が載っている関連書籍「 ワーク・ライフ・バランス進推マニュアル―どんな会社でも実現できる理想的な働き方 [単行本]
学習院大学経済経営研究所 (著, 編集) 」を購入した。→ブログの末尾参照
全体を通しての感想
・病院での医師、看護師のワークライフバランスについて、これまでは企業での経験と自分が患者や患者の家族として得た経験から想像しようとしてきたが理解できないことが多かった。
今回の話を聞くことによって、よく理解できたとは言わないまでも、企業との違い、企業との共通点を考えるためのキーワードを得ることができたように思う。
さらに情報収集を重ねてソリューションの提供につなげていきたい。
関連サイト
学習院大学経済経営研究所
日本医師会女性医師バンク
東京医科歯科大学女性研究者支援室【ANGEL OFFICE】
東京女子医科大学 女性医学研究者支援室