労働政策フォーラム(2010/7/28・29):「雇用多様化をはじめとする政策研究の今日的課題―JILPT平成21年度研究成果報告会―」を一部聴講してきましたので、レポートします。
労働政策フォーラム
雇用多様化をはじめとする政策研究の今日的課題
-JILPT平成21年度研究成果報告会-
日時:2010年7月28日、29日
場所:大同生命霞が関ビル6階
主催:独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)
今回聴講したのは、次の発表です。
7月28日(水)10:45~
女性の働き方と出産・育児期の就業継続
-就業継続プロセスの支援と就業継続意欲を高める職場作りの課題-
発表者:労働政策研究・研修機構(JILPT) 池田 心豪氏
→本報告は平成21年度の研究成果として公表した同名の報告書(労働政策研究報告書No.122)の要点をまとめたものであり、報告書は労働政策研究・研修機構のホームページで全文を閲覧することができます。
<研究の概要>
今回の報告は、「就業継続の政策効果に関する研究」(平成19年度~23年度)という研究テーマの、途中経過です。
テーマの背景は下記の通りです。
1992年の育児休業法施行以降、女性の育児休業取得者は増えたが、第1子出産前後に就業継続する女性は増えていない→なぜ出産・育児期に退職するのか。
=就業継続が増えるための課題は?
研究は、企業調査、個人調査、関係諸団体調査からなり、それぞれインタビューで調査したそうです。(詳しくは労働政策研究報告書No.122を見てください。)
これに対し、見えてきた課題は以下の通りです。
分析結果のポイント
①妊娠→出産→育児のプロセスを見通せるトータルの支援
②短時間勤務制度を円滑に運用するための長時間労働是正
③職域拡大とともに、多様な女性の就業意識に対応した職場づくり
④女性の長期的活用を推進する労使のコミュニケーションや外部からの助言・情報提供
これらの課題は、いいところをついていると思いました。レポートをじっくり読んでみたいと思います。
<聴講メモ>
第1章 出産・育児期の就業継続支援の課題
☆個人からみてどういう状況で難しくなっているのか?
・産休もないと思っている非正規雇用の労働者がけっこう多く、職場もわざわざ説明しないことがある。
・制度がない中小企業では、従業員がすべて自分で調べて会社に対してやってくれといわなければならない。
・早番は6時から、遅番は夜10時半までの勤務時間で、保育園の時間に対応していない。この会社では3才までの休業制度があり取得しにくいことはなかったが退職する人が多く、インタビューに協力した女性も育児休業中に転職した。
・つわりの重さから退職した女性、職場では早めに体調が悪いことを言ってほしいが、本人はなるべく仕事がしたいと思うから連絡がぎりぎりになる。
(感想):職場側が妊娠期の苦労を理解していないと不調であることが言い出しにくい雰囲気があったのではないか。
・妊娠を期に営業から事務職に変わったが、復職後短時間勤務を申し出たところ制度がないと断られ、営業に戻されたため退職。営業は大変だがやりがいがあって楽しかった。しかし子どもができたらそういう働き方はできない。
(感想):こういうケースは個別に慎重に対応すべきではないか。仕事のやり方を変えて子育てしながらでも営業ができるようする工夫を、職場側はあきらめてはいけないと思う。
と同時に、一定時期営業を離れるという選択を尊重し、数年後に戻れる選択肢もあるべき。
・育児休業制度があったが、女性の離職率が高い会社。従業員の要望を聞く会議があり、いろいろ意見は出ていたが実現したものがない。
会社は、制度を作った上で、これ以上何を望むんだ?と考えがちだが、制度を作って終わりではなく、働き続けることに焦点をおいた施策が必要。
第2章 企業における出産・育児と仕事の両立支援の課題
-育児休業と次世代法行動計画の取組みを中心に-
☆企業はどういう問題意識を持っているのか。
・D社(従業員961人、不動産業)は法律を上回る制度をそろえていたが、それが大事なのではない。ガイドブック整備によって、出産退職者減少、育休取得者増加、短時間勤務取得者増加という効果があった。
・制度がない会社は、作る必要がある。個別対応で対応が不公平になったり、従業員のいいなりになったりしないため。
・社外からの助言や情報提供を受けることも効果がある。
第3章 労働時間からみた就業継続支援の課題
☆長時間労働を容認する風土をどう改革するか。
・管理職の意識改革を進める。長く働いたから言い訳ではない。
D社の取組みは、目標管理制度で仕事の進め方に無駄がなかったかどうか評価。しかもそれを公開している。
・ただ、「早く帰りましょう」ではなく、作業のスケジュール管理の徹底、不要な業務の洗い出し(会議のためのPowerpointの資料を作らないなど)、ダラダラ残業の是正など、職場に合った具体的な対策をとること。
第4章 女性の活用と就業継続
☆働きやすいだけではNG。働きがいがないと続かない。
・B社(銀行業、5221人)の事例:2006年に初めて職員意識調査を行った結果、一般正社員女性の就業意欲は相対的に低く、パートタイマーより低いことが明らかになった。これで初めて経営者が危機感をもち、頭取の諮問機関として人事、現場女性のプロジェクトを作った。
・B社:均等施策として女性の職域拡大や管理職登用などいろんなしかけを作ってきたが、管理職を目指さない女性にとっては「関係ない」と写った。単線でなく、柔軟な働き方が必要。また男性にとっても転勤のない勤務など多様なキャリアパスが有効。
第5章 職場のコミュニケーションを通じた就業継続支援の課題
☆企業が一方的に従業員に思いを寄せるだけでなく、やりとりの中で取組みを進めていくことが必要。
・テーマをしぼってきちんとコミュニケーションをとる。わかっているつもりになったり、なあなあにしたりしない。
・女性の意見を集約する手段として、D社は労働組合がうまく機能した。女性が労組の執行部に加わってから、労組がうまく女性の意見を吸い上げ、経営側に伝えた。春闘で毎年テーマを決めている。総論的な話ではなく、一部の人にしか関係しないが当事者にとっては切実な問題を拾い上げるようにしている。
・本当はやめたくないのに、悩みを口に出さず心にしまったまま職場を去る人がいる。
・制度を利用してうまくいった人が、他の人に「こういうことを心がけましょう」というメッセージを発することも大切。
<全体を通じての感想>
・定員150人が何日も前から埋まっている状況で、当日もほとんど空席がなかった。
・聴講したテーマについて、発表者の池田氏の問題の捉え方には違和感がなかった。よくわかっている人が長期間かけてインタービュー中心の調査をしてくれている、とのことで、レポートの本文を是非参考にしたいし、最終的な発表にも注目したい。