2009年6月に女性社員が産休・育休後の降格、減給処分は不当であるとして勤務先を提訴した裁判について、2年半後の2011年12月に東京高等裁判所の判決が出ました。
ーーニュース記事ーー
育児休業からの復職後に減俸になったのは不当だとして、ゲーム開発会社の元社員女性が損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は2011年12月27日、35万円の支払いを命じた一審判決を変更、約95万円の支払いを命じました。裁判長は「同意なしに年俸を640万円から520万円に引き下げたことは人事権の乱用に当たり違法」と指摘しました。
ーーーーーーーーーー
この裁判には提訴の時から関心をもち、原告の支援団体が主催した説明会に参加し、東京地方裁判所での公判を傍聴して経緯を見守ってきました。
その時の記録は下記のブログにまとめてあります。
初めての裁判傍聴:育児休業差別による原状回復等請求事件
初めての裁判傍聴:育児休業差別による原状回復等請求事件 その2
法廷編:育児休業差別による原状回復等請求事件 その3
法廷編:育児休業差別による原状回復等請求事件 その4
法廷編:育児休業差別による原状回復等請求事件 その5
原告が提訴する以前から、育児休業を取得し復職した社員の多くが降格、減給という処遇を受けていたことがわかっています。出産で仕事を辞める女性が依然として多い中で復職を選んだロイヤリティの高い社員のモチベーションを下げてまで、降格、減給という措置を会社が優先したのはなぜでしょうか。
それには以下の二つの要因が考えられます。
・育児休業を取得し復職した社員は短時間勤務制度や時間外労働の除外申請を利用することが多く、成果を出していないため
・長時間労働が常態化している社員が、育休をとったり短時間勤務制度を使ったりする社員に対して持つであろう不満や不公平感に配慮したため
一つ目の要因は育児休業取得者を多く出している企業を中心に、広く問題視されています。しかし、これを問題にするのであれば、復職した後の評価にその結果を反映するべきです。子育て中であっても家族の協力や自己負担により保育環境を整えている社員もおり、復職と同時に降格するのは筋が通りません。
二つ目については長時間労働の常態化そのものや、負担が大きすぎると感じている個別の社員に対して何らかの対策をすべきです。時間制限のある働き方をしている社員がはけ口になるのは組織として正しい姿ではありません。
この裁判で問題となった降格、減給とまではいかなくても、数多くの企業で下記のようなことが行われています。
・育休後復職した社員を一律に元の職場に戻さない
・育休後復職した社員を全員ある決まった部署に配置転換する
・育休後復職した社員を遠い勤務地に異動させる
・短時間勤務制度を利用している社員を昇給、昇格の対象からはずす
・短時間勤務制度を利用している社員に教育・研修の機会を与えない
企業の人事、労務担当の方には、この判決の意味をよく考えていただき今一度こういった処置が妥当かどうか検討し直していただきたい。
また、組織で働く女性の皆さん、自分の直感で「この処遇はおかしい」と思ったら一人で抱え込まずに信頼できる人に相談してください。特に不利益を被る可能性が高いケースでは、会社の提案や説得に対してすぐに返事をしてはいけません。厚生労働省の組織で「労働局雇用均等室」という機関が各都道府県にありますのでそこへ電話し相談してください。(下記サイト参照)
この裁判をきっかけに、育児休業後の働き方についてより多くの議論が行われ、子育てしながらやりがいを持って働くことが当たり前の社会に近づいてほしいと願うとともに、自分ができることは着実に実行していきたいと思います。
関連ニュース記事
asahi.com(朝日新聞社):「育休取得で降格は違法」―東京高裁 – 社会
YOMIURI ONLINE(読売新聞)育児休業社員に降格・減給、会社側賠償額を増
額
育児休業:降格と減給は違法と判決--高裁 /東京 – 毎日jp(毎日新聞)
時事ドットコム:「育休取得で降格は違法」-東京高裁