9月16日に、東京地方裁判所へ行ってきました。
2009年6月に提訴された、育児休業差別による原状回復等請求事件の証人尋問を傍聴するためです。
この裁判が開かれることを知ったのは、前の週の9月10日、JCLU9月例会「育児休業差別を問う」という会に参加したからです。
裁判の説明をする前に、この例会で学んだことをまず報告します。
なお、最初におことわりしておきますが、私自身は法律のプロではありませんし、これを読んでくださる方のほとんども私と同程度の法律の知識しかないと想定しています。そのため、ことば使いや、法律の引用の仕方について、厳密に、正確に書こうとはあまりしていません。なにとぞご了承ください。
(間違いをご指摘いただくことについてはなんら問題ありません。)
さて、会場である大学の教室に集まったのは、ほとんどが大学生(たぶん法学部の学生とロースクールの学生)でした。ちょっと落ち着かなさを感じましたが、ずっと関心を持ち続けていた事件でしたので、一言も聞き漏らすまい、と気合いをいれました。
1.原告から事件の概要説明
報告者:関口陽子さん
原告の仕事は、ゲームで実在する海外のスポーツ選手やチームの名前を使うときの、ライセンスを取得することでした。2008年8月に出産し、2009年2月に戻る予定で、実際には4月に復職しました。
育児休業復職前の面談で、降格を告げられ、雇用均等室(*1)へ相談したところ、「おかしいのでは」といわれたこと。
さらに重ねた面談で、会社からの温かい配慮だと言われたこと。
「仕事がない」と言われたこと。
同時期に育児休業から復職した二人も、それぞれ減棒になっていたこと。
こういったことから、会社を提訴することを決めたそうです。
特に印象に残っているのは、2002年から2009年まで、少しずつ上がってきた年収をスライドで提示し、2009年の年収が2002年の年収以下になったことを指して「8ヶ月の休暇で7年分逆戻りした」と言っていたことでした。
少し救われたのは、提訴の翌日おそるおそる会社に出勤したところ、ほかの社員から熱烈な応援を受けた、ということです。これを聞いたとき、この人は仕事ができて周りからの信頼も厚い社員だったに違いない、と思いました。
原告は2009年6月に会社を訴えてからずっと仕事を続けていましたが、2010年2月に退職してロースクールに入学したとのことでした。
そして、9月16日午後、東京地裁で証人尋問がある、ということが伝えられました。(この時点ではまだ傍聴しようとは思っていませんでした。。。)
2.裁判の経過及び争点
報告者:金塚彩乃さん (弁護士、コナミ育休裁判弁護団)
この裁判の概要は、
育児休暇を6カ月取得後、職場復帰の直前に職位グレードの2段階の降格、年俸額120万円分の給与カット、及び海外ライセンス業務から国内ライセンスの事務処理へと業務内容の変更が行われたことにつき(本件処遇)、本件処遇は育休休業を取得したことを理由とする不利益取り扱いとして、女性差別撤廃条約、民法709条に違反するとして、2009年6月16日に東京地裁へ訴えを提起した事件
です。
弁護団が訴えたいことは、
・女性の選択肢をキャリアか家庭かの二者択一にしたくない。
・子どもを持った女性をひとくくりにして、そういった女性には一人前の仕事ができない、という差別的な見方をなくしていきたい。
ということです。
これに対して、会社側は、
1.役割グレードを降格した事実について
①本件処遇は、降格や減俸ではなく、業務内容変更に伴う単なる「変更」に過ぎない。
↓
②業務内容の変更は、原告が育児休暇を取得したためではなく、復職時にたまたま原告の従来グレードB1に見合う内容の業務が部内に無かったためである。
↓
③役割グレードは個人の能力に基づいて決められているのではなく、担当する業務に基づいて決められているもので、役割グレードの変更は、個人に対する評価の変更を意味しない。
↓
④業務内容の変更に伴い、役割グレードが変更されるのは当然のことであり、役割グレードが変更されれば、当然に年俸も変更される。
↓
⑤従って本件処遇は女性差別ではないことはもちろん、育児休暇を取得したことによる不利益扱いではない。
と主張しています。
争点は、
最大の争点は、被告による女性の差別的取扱ですが、訴訟上では、この問題は、以上のような形で争われることとなります。
①復職後の従業員の配置についての会社の義務の内容
②休職を不利益に取り扱うことの限界
このあたりの話を聞いていて強く疑問に思ったのは、会社はこんなことをしてどんなメリットがあったのか?ということです。入社して10年以上たち、30代半ばで出産し、万全の体制で仕事に戻って来ようとしている社員のやる気をなくすことにどんなメリットがあるのか。
保育園に子どもを預け、さらにベビーシッターも雇えるような家庭は一般的ではないと思いますが、原告はそこまでしている。それなのに復職後の仕事ぶりを見るでもなく、復職前に降格を決める。復職後に戻るかどうか態度を決めかねている育休取得者もいる中で、原告は出産4ヶ月後の12月には、2月に戻りますと宣言していたのに、ポストを用意していない。
こういったことは、あたかも、個人の能力なんか関係なく、育休をとった女性は一律こういった対応をすることが慣例になっていて、誰もをそれを変えようとしなかった、変える勇気を持たなかった、というように見えます。
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初めての裁判傍聴:育児休業差別による原状回復等請求事件 その2 #wmjp
雇用均等室は、都道府県労働局の一部門として各都道府県の県庁所在地に設置されています。
雇用均等室では、労働者がその能力を十分発揮していくことができるような労働環境をつくるとともに、職業生活と家庭生活との両立を図ることができるような社会環境を整えるため、労働者や企業の方々からの様々な相談に応じるとともに、必要に応じて企業に対し行政指導を行うなどの業務を行っています。
育児・介護休業法が改正され、育児・介護休業法に基づく紛争解決援助制度がスタートしたのに伴い、雇用均等室では、労働者と会社との間で育児・介護休業等の民事上のトラブルが生じた場合、解決に向けた援助を行っています。
援助の制度には、都道府県労働局長による援助と調停委員(弁護士や学識経験者等の専門家)による調停の2種類があります。
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