仕事と子育ての両立支援に関しては多くの実践事例やデータがすでに発表されており、自分自身も経験しているので実態と問題点はだいたい把握できているのですが、介護については情報量が少なく、全体像が把握できていませんでした。実際に参加してみて、育児との両立との違いが少し見えてきたように思います。

筆者の主観がまじった報告であることをご了承いただいた上で、参考にしていただければと思います。

~企業はどこまで介護と仕事の両立支援をしたらよいか?~
仕事と介護の両立支援シンポジウム

日時:2010年12月3日(金) 13:30~16:00
場所:立教大学池袋キャンパス内 太刀川記念会館3階ホール
主催:株式会社wiwiw 立教大学大学院ビジネスデザイン研究科・21世紀社会デザイン研究科
参加の理由:仕事と育児の両立と比較すると、仕事と介護の両立に関する実態はよく知られていないため、このシンポジウムで発表される調査結果は注目に値する。樋口恵子さんの基調講演、佐藤博樹教授がコーディネートするパネルディスカッションにも期待。
プログラム内容:
【基調講演】(45分)
『介護にかかわる社会制度の現状と課題』
講師 樋口 恵子氏(高齢社会をよくする女性の会 理事長)

【調査結果発表】(15分)
『仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査結果』(厚生労働省委託事業)
みずほ情報総研株式会社
社会経済部コンサルティング部 コンサルタント 小曽根 由美氏

【パネルディスカッション】(55分)
『企業に求められる仕事と介護の両立支援とは?』
◆コーディネータ◆
 佐藤 博樹氏(東京大学 社会科学研究所 教授)
◆パネリスト◆
 双日株式会社
 人事総務部 ダイバーシティ推進課 上級主任 長島 裕子氏
 日本電気株式会社 
 事業支援部 勤労統括マネージャー 手塚 修一氏
 みずほ情報総研株式会社
 社会経済コンサルティング部 コンサルタント 小曽根 由美氏

【介護休業者支援などのご紹介】(15分)

<基調講演>
・介護から逃れられる人はいないが、介護で仕事を辞めなくてもよい社会を作りたい。
・昭和5年(1930年)50才女性の”持親率”は父5%、母2−30%
   → 昭和50年(1975年)には60%
     現在はほぼ100%(推測)
・寿命がのびたことにより介護の期間が長い。
   昭和38年に介護ということばが出てきたが、それまでは看護だった。
・100才の親を80才の子がきちんと見送れるような社会システムとはどうあるべきか?
   人生100年としたときの社会システム、社会保障のありかたを考える時に来ている。
・出生率の低下がここ数年問題にされているが、見落とされているのはもっと大きな出生率の変動。
   昭和25年(1950年)の出生率は3人
   → 昭和35年(1960年)の出生率は2.0。この10年の減少が激しい。
   この結果、こんな現象が起きている。
    親はみんな生きている、きょうだいは2人、長男・長女の結婚が多い、4人の親を持つ、遠距離介護が多い、4人の80−90代の親が要介護1以上
    「同時多発介護」
・北欧などは子どもの数が増えている。子どもを産み育てやすい社会にしていく必要がある。
・介護の問題は日本にとって第3の黒船。(第1は明治維新、第2は敗戦。)
・働く女性の3度目のすべり台(=生活レベル低下のきっかけ)が介護による退職。1度目は出産による退職、2度目は30−40代、子育てによる退職や離婚による経済力低下。
・40代ー50代で直面する第3のすべり台は、会社としても損失、高い給料(=税金)がなくなるため国家の損失、本人の老後不安の増大、という意味で問題が大きい。年間14万人が辞め、男性がそのうち2割近い。
・育児は先が見えるが、介護は見えない。正規社員のままでフレキシブルに働けることが必要。
・これからの介護は「ながら介護」。ワーク・ライフ・バランスではなく、ワーク・ライフ・ケア・バランス。
・同居している人への生活援助が課題。家族の負担の軽減が大切。
(筆者が見つけた関連サイト → 1人で親の介護しながら仕事:シニアニュース:yomiDr.  
・仕事と介護の両立は、定年後にはその人の人生と介護との両立になっていく。
・介護休業取得率は現在0.06%だが、この制度を上手に利用して仕事を辞めないことが大切。

<調査結果発表>
・(調査結果の概要は下記のサイトに掲載されていますので、ここではそこから得られたポイントのみを報告します。)
厚生労働省:平成21年度厚生労働省委託調査 仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査結果について
・仕事と介護の両立に向けて、企業が取り組むべきこと
ー 介護について上司や同僚と話し合える職場風土の醸成
ー 残業を削減・軽減する、労働時間に融通を利かせられる、突発的な事態への対応など、柔軟な働き方の仕組み
ー 社員への、自社の仕事と介護の両立支援制度に関する情報提供、周知
ー 仕事と介護の両立支援に関して相談できる体制の整備
・仕事と介護の両立に向けて、国や地域・社会が取り組むべきこと
ー 仕事と介護の両立支援に関する職場のベストプラクティスの収集と情報提供
ー 介護に関する情報の普及啓発
ー 緊急時に対応できるショートステイなど在宅介護を支援するサービス
ー 精神面での負担軽減のための相談の充実
・参考データとして、65才以上の要介護認定者の割合は、65−75才で4.3%なのに対して、75才以上は29.8%ということ。
 → 企業は、45才以上の社員については3人に1人が介護にかかわる可能性があることを考える必要がある。社員の平均年齢や、年齢ごとの人数分布をいますぐ確認し、仕事と介護の両立が可能な職場に変わる目標年度を決めなければならない。そこへ向けて今から計画を立てるべし!

<パネルディスカッション>
双日の取組:
・2008年からダイバーシティ推進課を設立、同年労使一体のWLB委員会を開始。
・2010年介護セミナー、介護座談会実施。
・2010年社外の専門家による介護相談窓口設置予定。
・介護休暇(有給)と介護休業(無休)あり。介護休暇に未消化の有給休暇を当てている。
・介護休暇取得実績が2009年から2010年にかけて大きく増加。
・ホームヘルパー資格取得講座受講料補助制度あり。

NECの取組:
・介護休職取得開始者は毎年10名程度、年齢別では40代以上が55%。
・介護休職取得者の2/3が取得期間6ヶ月以内。対象の6割強が親。
・NECグループ従業員の6割が介護世代(45才以上)と介護世代予備軍(40代前半)に該当。
・2010年春季労使交渉で労組から介護支援施策充実化の正式要望が出たことで検討が加速。
・グループ各社労使の相互扶助団体である共済会より介護支援への支出が可能だった。
・介護者の孤立感、不安感を解消するためのグループ内介護支援コミュニティの形成(ポータルサイト、ベネフィットワンの利用)
・今後の課題は従業員のニーズ把握、施策効果の定量的評価

佐藤 博樹氏のコメント:
・介護支援制度の利用はまだ少ないが、潜在的に問題を抱えている社員が多い。
・どうやって仕事と介護のマネジメントをしたらいいかの知識がない。→社内セミナー成功の背景
・介護のケースが多様化していることが子育てと違う。遠くに住んでいても、要介護認定を受けていなくても、心配は心配。
・経験した人が自分の経験を話しにくい。共有することが難しい(子育てと比較して)

小曽根 由実氏のコメント:
・相談できる環境が大事。
・親が倒れたときに介護保険のことを知らないケースが多い。
 →地域によって違うので、社外の専門家に聞く必要がある。
・自分の会社の制度のことを知らない人が多いのでパンフレットやイントラネットで情報を提供し、研修などを開催する必要がある。
・介護休業を取得するかどうかを決めるとき休業中の処遇、評価が気になる人が多いので、取り扱いを事前に知らせることが必要。
・休業する前にやるべきことがたくさんある。自分が介護してしまってはいけない。(=介護体制のマネジメントをすべき。)

<介護休業者支援などのご紹介>
・wiwiw社の介護休業社向け職場復帰支援プログラムwiwiw(ウィウィ)は介護の開始から復帰までをカバーするシステム。育児休業者向け職場復帰支援プログラムを利用中の法人は導入費が無料。
・職場とのコミュニケーション、社外の専門家が応える電話相談、オンライン講座などの支援機能が備わっており、休業中の不安を取り除くのに役立つ。
・wiwiw社では、介護関連の研修も提供している。例えば、制度の基礎知識や介護そのものの理解を深めるセミナー。

<全体を通じての感想>
・親が75才以上になったら3人に1人は要介護。これを基準に、企業は社員の平均年齢を参考に、柔軟な働き方ができる組織作りへの取組すべきことがよくわかった。

・仕事と育児を両立した経験のある者に比べて、仕事一筋で20年以上勤めてきた社員にとって介護との両立は気持ちの切り替えが難しいと思う。プライドが傷ついたりモチベーションが下がったりするかもしれない。そういった社員は、迷惑をかけるぐらいなら、と仕事を辞めてしまいがちである。しかしそれは企業にとっては中核社員を失い大きな損失であるし、本人や介護される者にとっては経済的な基盤を失うことになるため、最も避けるべきことである。急な介護自由の発生で、誤った選択をしないよう、早いうちから企業と従業員との間で介護との両立に関する情報共有を促進すべきと強く感じた。

・2社の貴重な事例を聞けたことは非常によかった。実際に取組を始めて成果を上げている企業があるということは励みになる。多くの企業で危機意識をもって取組を開始してほしいと思う。

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