働き方改革が企業を変える!~個と組織を強くするワーク・ライフ・バランス経営戦略~ と題した県内企業の事例報告会を聴いてきました。

平成22年度神奈川ワーク・ライフ・バランスシンポジウム
日時・場所:2010年7月12日(月) 川崎市高津市民館
プログラム:
第1部 基調講演「生産性向上のメカニズム」
     講師 阿部正浩氏 (獨協大学経済学部教授)
第2部 事例報告
     1.(株)日立テクニカルコミュニケーションズ(横浜市)
     2.医療法人明徳会 総合川橋病院(川崎市)
     3.協同組合Sia神奈川「おひさま園」(相模原市)

<基調講演の感想>
阿部教授の講演内容は、下記の通りです。

・日本は急速に高齢化と人口全体の減少が進み、現状のGDPを維持するのは非常に難しい
・GDP=生産人口x一人あたり生産額(生産性) →GDPを増やすには生産人口(労働力率)、生産性を増やす必要あり
・生産性を高めるには、従来教育訓練の機会が少なかった層を掘り起こすことだ
・定着率を高めるには、企業は従業員の自己実現と仕事の両立(=WLB)を考えるべきではないか
・海外と比べて日本の労働時間が長いのは、
 - 新しく雇うよりも既存労働者の労働時間を長くしたほうがコストが安いから
 - 質の高い仕事が求められているが質が適正に評価されていない
  (サービス業で質の高いサービスが行われているが価格に反映されていない。例えば、ファストフード店、宅配便
・日本企業の人事担当で欧米企業へ行ったことがある人がまとめた資料によれば、
 - 仕事の仕方、させ方(裁量度、個人の責任範囲、関係部署との調整、その他上司のための資料作り欧米ではしないなど)
 - 管理職の権限→欧米:大、日本:小
 - 業務量の増減への対応→欧米:人員の増減や優先順位付けによる仕事の増減で対応、 日本:労働時間で調整
 - 評価制度→欧米:アウトプット重視、日本:プロセスや人間性もみる、評価基準あいまい
 といった点で欧米と日本での違いがみられた。

私自身、子育て、女性、育児休業といったキーワードだけでワークライフバランスを語ってしまうことが多いのですが、阿部先生は、「自己実現と仕事の両立」をワークライフバランスの定義として使っています。現代社会では、特に高齢者と女性は多様化していて、多様な自己実現を大切に考えている。こういった層を労働力として取り込むには、多様な自己実現と仕事を両立できるような職場である必要がある、ということです。

労働時間を短くするアプローチに関しては大変参考になりました。一つ一つの職場で、無駄な作業をなくし、個人の責任範囲などを見直していくという地道な作業を避けては通れない、ということを改めて感じました。

<日立TCの事例>

日立TCは、日立グループのマニュアル制作専門会社です。
平成19年度、21年度によこはまグッドバランス賞の表彰を受けています。
社員に女性が占める割合は51%、管理職に女性が占める割合は38%と、女性の登用が進んでいる会社です。
育児休職からの復職率は100%、育児休職経験者は実に社員全体の1割を占めるとのこと!
ここまで経験者が多くなると、職場の誰かが育児休職するといっても、仕事の分担の見直しや引継ぎ計画その他が淡々と進み、本人も周りもあわてることなく準備ができそうですね。
今年中には初の男性の育児休職取得者が出る予定だそうです。

この会社の取組みで特筆すべきなのは、下記の点です。
・制度は法定内であり特別なものはない
・育児休職者の職場復帰をサポートするWebサービス「armo(アルモ)」を導入
・短時間勤務者もフレックスタイムを利用可能
・仕事と育児の相談窓口を設置
・仕事と育児両立支援ガイドブック作成

特にガイドブックは、女性社員だけでなく、育児をしながら働くすべての社員とその上司を対象に書かれているものです。イントラネットで社内に公開されており、子育てを経験していない社員にも、子育て中の社員の事情を理解してもらえると非常に評判がよいそうです。

この発表について阿部教授のコメントの中で、「育児休職からの復職率が100%なのは、もともと魅力ある職場だからこそなのではないか。」というものがありました。つまり、制度を作ったから使われるのではなく、それを使いたいと思うような職場ありきではないか、というご意見です。
また、マニュアル制作のプロが喜ぶガイドブックなら、一般に公開して売れるのでは?という一言もあり、確かにそうだと思いました。

<総合新川橋病院の事例>

総合新川橋病院の事例発表で衝撃的だったのは、看護職員数で全国6位の神奈川県が、人口10万人あたりの看護師数では47位、つまり最下位で、全国平均の3分の2、1位の鹿児島県の5分の2だったことです。(ちなみに、首都圏の一都三県が下位4都県を占めます。)
それだけ、病院では看護職員の確保に苦慮しており、現在勤務している看護職員が元気で長く働き続けられる職版環境の整備が必要である、ということです。

具体的には、院内託児室を設置(職員のために保育料を2万5千円/月に抑えている、というところに会場一同驚き)、子の看護休暇制度の導入、短時間勤務制度の導入、ノー残業デーなどを実施。

結果として、看護職員の離職率が平成18年度の13.84%から平成20年度は8.25%と低下。
平均勤続年数は平成18年度の5年8ヶ月から平成20年度の7年2ヶ月へ増加。
看護師は専門職であり、どうしても待遇がよいところへ移っていってしまうなかで、これはよいほうだ、ということでした。

改善の効果として、神奈川県からワークライフバランス推進企業として認定を受けたことが、採用に対する問い合わせが増えるという効果につながった、ということです。一般の企業ばかり見ていると、人を減らす方向にしか頭が働かなくなりますが、医師、看護師は常に人手不足であり、病院にとってこういった認定には大きな意味がある、ということに改めて気づきました。

阿部先生のコメントとして、医師、看護師はプロフェッショナルであるため、待遇の改善の中でも、特に勉強の機会を提供することが定着率の向上に効果がある、とのことでした。勉強会の定期開催などで流出を防ぐという事例があるそうです。

<「おひさま園」の事例>

「おひさま園」は、協同組合sia神奈川が、工業団地の16社協同で開園した保育園です。

協同組合は2008年6月に設立され、おひさま園は2009年11月に開園しました。
組合には保育園を設立した経験者が誰もいない中、従業員が安心して働けるようにとの思いから設立したとのことです。

保育園の基本理念で特徴的なのが、親の頑張って働いている姿を見て、家族の大切さを感じる心を育てる、という一節です。
工業団地の近くに住み、子どもを近くの保育園に預け、落ち着いて働く。そういった環境を提供することで、よい人材を確保したいという組合の
思いが現れている理念だと思いました。
     
また、保育園の基本的な考え方として、極力親の負担を軽くしたい、保育園や幼稚園以上のサービスを目指している、ということで、ちょっとうらやましいなと思いました。この園は設備が充実していて少人数、アットホーム、畑もあり、非常に恵まれています。

ただ、当初20名の定員は足りないぐらいと想定したにもかかわらず、不況の影響などで現在の入園時は6名に留まっているとのことです。近隣でお困りの方は一度訪ねてみてもいいのではないでしょうか。

阿部先生のコメントとして、16社が集まってひとつの保育園を運営するというのは大きな特徴。公的なサービスを補うという意味で大切な考え方である、ということでした。
企業組合としての取組みで、ほかにも協同で研修制度を作ったり、育児休業取得者の代替要員を組合内で融通したり、ということもできるのではないか、ということでした。

最後の質疑応答での阿部先生の発言から、気になった表現を紹介します。
1.欧州と日本との責任範囲の違いについて。
 欧州は、野球でいうとサードとショートの間がズボッとあいている。
 日本は、始終サードとショートが動き回ってそこを埋めている。
 それでも、欧州は試合終了まで戦ってしまう、のだとか。
 確かにそう聞くと、日本のほうが高度な技術を持った野手が必要でしかも試合終わった後の疲れ方が大きいですね。
2.育児、介護休業取得者がいると周りの社員にしわよせが行くことについて
 「休暇ばっかとりやがって、早く帰りやがって!」という反応に対し、「会社にとって、そういう働き方で働いてもらうことが大事なんだ」と説明しわからせることが必要である。それと同時に、休業者が出たときには仕事のムダ取りを徹底してやる。この両方でやっていくしかない。
3.魅力的な職場
 自分のプロとしての知識、技術をどこまでこの会社は伸ばしてくれるんだろうか?これに応えることが魅力的な職場につながる。金銭だけではない。中小企業でも、工夫次第でWLBができる。

全体を通じて感じたことは、ワークライフバランスへの取組みの必要性がすでに多くの職場で理解されており、現在はそれに取り組んだ職場がすこしずつ成果を上げ始めてきたフェーズにあるのではないか、という実感です。なぜ必要なのか、という議論から一歩進んで、自分たちの職場にとって効果的な対策について、他社事例を参考にしながら始めてみる。そのために、こういった身近な事例が聞けるシンポジウムは大変貴重な場だと思いました。 

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